バンコク賃貸事情 高い部屋vs安い部屋 2019.2.3 22:07
タイの大都会バンコクはどんな人――人種、経済力、嗜好を問わず、希望通りの賃貸住宅がみつかる。それほど供給量が多く、部屋を借りたい人にとっては好都合である。
その分、借りる際には自身の中にある事細かな条件を炙りだし、可能な限りクリアしている物件であることを確認してきたい。その条件づけには日本とは違った目線で物件を見極めることが重要になる。
例えば常夏のタイでは必ずしも南向きがいい部屋というわけではない。季節によっては北向きの部屋も十分な採光があるからだ。また、エリア的には同じ場所にあっても、ちょっと位置が違うだけで朝夕の渋滞に激しく巻き込まれることもある。自宅の出入りに1時間かかるなんてバカげた話だ。それから、水はけも大事だ。雨季のバンコクはスコールによって冠水することが少なくない。そのとき、10分で水が流れていく場所と、1時間経っても水が留まるところがある。
こういった諸条件を念入りに調査すれば、あとは家賃が予算に見合うかどうか。とは言っても、バンコクはどんな人にも借りられる部屋が揃うわけで、それはつまり激安賃貸から、超高級マンションまでが揃うという意味でもある。
そこで今回、実際に高級物件と低級アパートを訪問し、果たして単純に高級物件であれば住みやすいのかなど、バンコクの賃貸の現実を見てきた。
家賃50万円と1万円を比べてみる
今回の物件見学は、バンコクでも最大手とされる賃貸不動産仲介業者「ディアライフ」にお願いした。高級物件は伝手がないことには見学ができない。そこにやってきたのは営業担当の伊藤琢矢(いとうたくや)氏だ。
伊藤氏の経歴が実におもしろい。20代はアマチュアとしてサッカーをプレーし、33歳にしてプロを目指したという人物だ。そして、36歳で実際にJリーグのピッチに立ち、プロとなる夢を叶えた。その後、タイのプロ・リーグに参戦し、その傍らでバンコク在住の日本人の子どもたちを中心にサッカーも教える。そして、今、縁があって「ディアライフ」の営業も兼ねている。
元Jリーガーというプロ・スポーツ選手ならということで、同時に不動産のプロが見るバンコクの安い物件も探してもらった。本来は「ディアライフ」では扱わないような安い物件ではあるが、伊藤氏に甘えて押さえてもらったのだ。ただ、「扱わない」というのは正確ではなく「扱えない」と言った方がいい。不動産オーナーが安い物件のために手数料を考慮すれば、仲介業者を間に挟むことがないからだ。
そんな「ディアライフ」の伊藤氏に紹介してもらった高級マンション(タイではコンドミニアムと呼ぶ。以下コンド)は、2018年8月にオープンしたスクムビット通り沿い、高級商業施設が建ち並ぶ在住日本人御用達エリア「BTSプロンポン駅」から徒歩2分の「MARQUE SUKHUMVIT」だ。総階数50階で、最上階には住民しか入ることのできないルーフトップバーなどを備えるバンコク屈指の最高級コンドとなる。ここは124㎡で15万~17万バーツ(約50万~57万円)という家賃だ。
一方の安アパートは、スクムビット通りソイ49の奥地にある古びたアパートだった。スタジオタイプの部屋で、広さはせいぜい30㎡くらいか。この広さで月々3500バーツ。つまり約12000円である。
立地は奥まった場所でもあまり関係ない?
その安アパートはさぞ辺鄙な場所にあるのではないかと思われるだろう。確かに「MARQUE SUKHUMVIT」は大通りに面していることから比べれば奥まった場所にはある。しかし、エリアとしては日系企業駐在員とその家族が暮らすトンローに当たる。トンロー自体は高級住宅地にあたるが、一歩裏に入るとタイ人の中級階層以下が暮らすローカルエリアでもある。辺りには食堂や屋台が軒を連ね、道には放し飼いの鶏が闊歩する。
そもそも「MARQUE SUKHUMVIT」の超高級以外のコンド――駐在員が借りる賃貸コンドは7万バーツ前後(約24万円)が平均とすると、大半がやはりソイ(大通りから入る小路)の奥まった場所になる。つまり、立地条件としては大したハンデはないと見ていい。
ただ、ソイの奥にあるコンドは多くがサービスとして大通りや商業施設、あるいはスカイトレイン駅までの無料送迎がつく。分譲マンションあるいはサービスアパートメント(掃除洗濯などのメイドサービスが家賃に込みになった賃貸住宅)は共益費などに各種サービスの運営費が含まれる。一方安アパートはあくまでも部屋代のみであるため、そういったサービスは一切ない。バイクタクシーなどを利用して大通りまで移動する手間がかかってしまう。その面倒を気にする人には大きなハンデになることは否めない。
特に共有スペースのファシリティーの差は歴然!
高級物件と安アパートでは共有スペースのファシリティー(設備)の違いも同様で、入居者が支払うサービス料金を考えれば当然の結果と言える。
「MARQUE SUKHUMVIT」においては入り口からすごい。知らずに来れば高級ホテルかと思うようなロビーだ。受付もホテルのレセプションのようで、サービス内容は限定されるものの、日本の高級タワーマンションのようなコンシェルジュ・サービスを期待できる。

また、「MARQUE SUKHUMVIT」は簡単に説明すれば東西南北に四角い建物で、それぞれの方向に1部屋ずつ配置される。つまりワンフロアに最大でも4部屋しかない。そして、東西南北に1基ずつエレベーターが設置され、住民は隣人と顔を合わせることなく、部屋に入ることができる。
これくらいのコンドになればプールもあるし、フィットネスも完備される。バーチャル・シミュレーションで練習できる屋内ゴルフ打ちっ放しルームもあった。最上階の住民専用ルーフトップバーから見る下界の景色は絶景そのものである。この景観はバンコクでも屈指の美しさと言っても過言ではないだろう。

一方、安アパートにおけるファシリティーとは、見学したアパートで言えば、なにもなかったと言っていい。せいぜい狭い駐車場と、朝夕には屋台が出るので買い出しがしやすいという程度か。
室内に関しても差は激しい。「MARQUE SUKHUMVIT」ならアイランドキッチン、ウォークインクローゼットのほか、バスタブもあるし、そもそも室内にトイレが2つはあった。また、メイド用の部屋や、クローズドタイプのミニキッチンまで備わっている。
安アパートは部屋にトイレはあるものの、シャワーのみ。しかも洗面台はベランダにあるため、使い勝手が悪い。エアコンはなく、古い扇風機がひとつ置いてあるだけだった。タイのアパートは5000バーツ(約17000円)も払うとベッドやクローゼットがつくが、さすがに3000バーツ台の部屋はすなわちバンコクでもかなり安い方であるため、家具にも期待できない。


ライフスタイルによっては安アパートも悪くない?
使い勝手はあくまでもライフスタイルや物件の構造にもよるだろう。ただ、この点に関しては「安アパートも負けてはいない」という感想も少なくないはずだ。
例えば、立地条件はあくまでも「MARQUE SUKHUMVIT」と比較すれば不便であるとはいえ、安アパートも都度バイクタクシーを利用すればいいだけの話である。自家用車を保有する、あるいは会社で車を支給してもらっているならば停めにくいので不便だが、車を持たない生活であればなんら困ることはないのではないか。バイクタクシーはせいぜい1回20バーツ(約70円)と安い。
また、スクムビット通りとは反対方向に進むとセンセーブ運河に出るため、運河を運航するボートをバス代わりに利用できる。渋滞に巻き込まれないので、日系デパート「伊勢丹」や観光ショッピングゾーンとして人気の雑居方商業施設の「MBK」などへも早ければ20分程度で到達できる。
部屋自体も真四角のシンプル構造だから使いやすい。エアコンや温水シャワーを自分で設置すれば快適さを創りだすことも可能だ(許可が得られればの話だが)。周辺は屋台が充実しているし、コンビニ、ATMもあるため、なんら不自由はない。
「MARQUE SUKHUMVIT」はスクムビット通りソイ39のそばであり、正門はスクムビット通りに面している。BTSプロンポン駅までは徒歩2分、大型商業施設の「エムクオーティエ」も同じくらいの距離だ。この点は便利ではあるものの、近辺は朝から深夜まで渋滞が激しい。空いているのは夜も0時近くになってからだ。車やタクシーを利用するには不便極まる場所である。
なにより、「MARQUE SUKHUMVIT」は分譲のため、内装は各部屋のオーナーの趣味にも影響される。同じレイアウトの部屋でも内装の違いで住み心地も格段に変わってくる。安アパートの画一的な部屋の方がかえって選びやすいとも言える。
それから、ファシリティーで説明したように、「MARQUE SUKHUMVIT」はエレベーターが各方位に1基ずつとなる。つまり、総階数50階だが居住エリアが37階分だとした場合、朝夕の出勤・帰宅ラッシュの時間は37世帯がひとつのエレベーターを使うことになる。一見高級で素晴らしい設備だが、実用性にやや疑問が残る。
セキュリティーは運営者に関係?
高級物件と安アパートでは安全性に違いがあることはあるが、これも立地や運営者、あるいは従業員の意識の高さに関係する。
筆者個人の体験談になるが、かつてアパート暮らしだったときは自分に、また近隣住民においては盗難や空き巣のトラブルは幸い起こったことがなかった。5000バーツ前後のアパートで暮らしていたときのことだ。その後、郊外の中級コンドミニアムを購入し引っ越したが、これまでに何度か別の棟やフロアの住民が空き巣に入られている。おそらく敷地に入る正門と、各棟に待機するガードマンがしっかりと身分証などを確認せず、見ず知らずの人に開けてくれと言われたらそのままドアを開けてしまっていたのだと思われる。これではキーカードを使った電子ロックの意味がまったくない。
「MARQUE SUKHUMVIT」は総戸数が148部屋になる。安アパートはざっと数えて50部屋があるかないか。電子制御など最新のセキュリティー設備が整うのが「MARQUE SUKHUMVIT」だが、その分従業員も多ければ、住民の顔ぶれも多い。顔見知りが必然的に少なくなる。
一方安アパートは個人経営で、オーナー一家が常時入り口前に座っている。レセプションがすなわちオーナー世帯のリビングなので、常に監視の目が行き届く。住民すべてが顔見知りと言っても過言ではない。つまり、安い家賃だからといって、必ずしもセキュリティーが悪いわけではない。

もちろん「MARQUE SUKHUMVIT」は最新のコンドであり、防犯体制はバッチリだ。今回の「MARQUE SUKHUMVIT」と安アパートを比べたら、安全性は断然前者に軍配が上がる。ただ、古びたコンドのセキィリティーシステムが必ずしも安アパートに勝っているとは限らない。この点は理解して、特に若い女性や子どもがいる世帯は入居前の下見でしっかりとチェックしておくべきである。
まとめると条件次第で選べばいいのだが・・・・・・
総じて言えば、安アパートと「MARQUE SUKHUMVIT」なら優雅に安全に暮らせるのは後者である。ただ、冒頭で述べたように、どのように暮らしたいかによっては必ずしも「MARQUE SUKHUMVIT」がいいわけではない。
安いアパートにもメリットはたくさんある。今回の2物件で言えば、家賃の差が大きい。安いアパートなら「MARQUE SUKHUMVIT」の1ヶ月の家賃で3年半以上暮らすことができる。ある程度任期が決まっていて、中期程度であれば安いアパートで会社の経費を抑えつつ暮らすこともできる。また、帰任のタイミングで主に年間契約が必要になるコンドに入居できない場合の「繋ぎ」として安アパートも利用価値がある。

ただ、大前提として、安アパートはタイ語がある程度できるか、タイの文化や生活習慣に精通していることが条件となる。バイクタクシーやセンセーブ運河のボートの利用、屋台の食事などは、まったくタイを知らない人にはおそらくストレスにしかならない。
結局のところ、両方に一長一短があるのだが、タイに不慣れな人などはまず3万~10万バーツ程度(約10万~34万円)の、高級過ぎない高級物件から始めるのがおすすめである。

髙田胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住のライター
http://nature-neneam.boo.jp/basic/taneomitakada.html
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